スタディクーポン・イニシアティブ

経済的な理由で塾に通えない高校受験生にスタディクーポンを届ける「スタディクーポン・イニシアティブ」のブログです。

渋谷スタディクーポン事業(2018年度)のご報告

こんにちは。
スタディクーポン・イニシアティブの今井悠介です。

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2/13に渋谷区にて「渋谷スタディクーポン事業報告会」を開催しました。
今回報告した事業は、多くの方からの寄付金を原資に、渋谷区で2018年度に実施したものです。

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当日は、イニシアティブ代表の今井・安田による事業報告に加え、岩田千亜紀氏(東洋大学助教)による外部評価結果報告、渋谷区福祉課長、クーポン利用者卒業生、ブラザー・シスター(大学生ボランティア)を交えたパネルトークを行いました。会場には、自治体職員の方、寄付者の方など、約90名の方がお越しくださいました。

なお、2018年度の事業の成果も踏まえて、2019年度からは民間の寄付金ではなく、渋谷区の公的資金を用いてスタディクーポン事業が実施されています。クラウドファンディング実施時から掲げていた「政策化」という目標を達成できたのは、ご支援いただいた皆さまのおかげです。本当にありがとうございました。

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▼参加者からの感想(一部抜粋)
・当自治体の施策として手を上げるために、大切な学びになりました。(自治体の方より)
・渋谷区などの自治体で政策化されていることを知ることができて、サポーターとして嬉しく思いました。(寄付者の方より)
・外部評価者、自治体、クーポン利用者の卒業生、ブラザー・シスターなど、運営者以外の立場で語ってもらえて参考になりました。特に、クーポンを利用していたお子さんやブラザー・シスターの言葉が心に響きました。(一般参加者の方より)

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この度は、報告会の内容のご紹介と合わせて、渋谷スタディクーポン事業(2018年度)の最終報告をさせていただきます。

 

■目次

1.「渋谷スタディクーポン事業最終評価報告書」ダイジェストのご紹介

2.スタディクーポンのこれから~政策化と全国への広がり~

 

1.「渋谷スタディクーポン事業最終評価報告書」ダイジェストのご紹介

まず、岩田千亜紀氏(東洋大学社会学部社会福祉学科助教)による最終評価報告書のダイジェストをご紹介します。

最終評価報告書では、区との連携により支援ニーズの高い子どもたちにリーチできたこと、クーポンを利用した子どもたちの学校外での平均学習時間が増加したことや、学習に対して前向きになった子どもが増えた点などを高く評価していただいています。ぜひご覧ください。

報告書全文(PDF/75頁)ダウンロードはこちら

報告書ダイジェスト(PDF/28頁)ダウンロードはこちら

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 (1)事業の概要

まず、渋谷スタディクーポン事業の概要と、スタディクーポンの仕組みについて説明されています。

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次に、渋谷スタディクーポン事業のロジックモデル(※)と、今回の最終評価の範囲について示されています。ロジックモデルは、運営事務局や渋谷区など、ステークホルダー間で協議して作成されたものです。

※ロジックモデルとは・・・ある施策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示したもの

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また、本事業全体のスケジュールおよび今回の最終報告書の位置づけが示されています。

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(2)最終評価の概要

次に、今回の最終評価の概要(目的など)について説明されています。
アンケートは、初回・中間・最終と3回実施され、客観的に変化が確認されています。

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今回の最終評価の評価項目は、ロジックモデルの5つの評価項目に「ニーズへの適切性」を加え、6つとなっています。

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(3)最終評価結果

今回の最終評価の結果概要としては、以下の通りです。
主に、①対象者からのニーズの高さ、②生活保護世帯の子どもの捕捉率の高さ(生活保護世帯の子どものうち、スタディクーポンに申し込んだ子どもの割合)、③学習習慣の確立や学習意欲の向上等に関して一定の効果が示されたことの3点が評価されています。

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このような結果から、総合評価として「今後もスタディクーポンを通じた教育支援を継続すべきである」と述べられています。

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(4)最終評価結果の詳細

①ニーズへの適切性

次に、最終評価結果の詳細について説明しています。
1つ目の評価ポイントは、子ども・保護者のニーズに対して的確に対応できているという点です。調査では、子どもの学校外教育費に困っている保護者が最も多いことが分かりました。

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また、子どもや保護者からの事業への希望や期待をヒアリングしたところ、事業の継続実施など、事業に対するニーズや期待が非常に高いことが明らかになりました。

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さらに、家庭・利用者の状況としては、ひとり親世帯や多子世帯が多く、支援ニーズの高い子どもたちにリーチできていることが分かりました。

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②アウトプットの達成状況

2つめの評価ポイントは、アウトプットが高い精度で達成されているということです。特に生活保護世帯の捕捉率が高いという点が評価されています。

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③短期アウトカムの達成状況

次に、短期アウトカムの達成状況が確認されました。
まず、スタディクーポンによる変化として、多くの子どもが通塾を開始したり、通塾頻度を増やしたりしたことが分かりました。

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また、子どもたちがクーポンを利用して通った教室等への満足度も86.0%と高い水準となりました。

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加えて、ブラザー・シスターへの満足度についても、92.6%と高い満足度となりました。

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④中期アウトカムの達成状況

3つめの評価ポイントは、中期アウトカムとして学習習慣の確立や学習意欲の向上等に関して一定の効果が示されたということです。
特に、クーポン利用前後で一週間の学習時間が90.2%伸びたことが明らかになりました。

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また、子どもの学習意欲についても、86.0%の子どもがポジティブな回答をしています。

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人間関係についても、一定数の子どもたちの間で、交友関係の広がり・深まりがあることが確認できました。

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また、親への影響としては、「子どもの教育に役立つものへの支出を増やすことができた」、「子どもの進学に関する不安が軽減された」保護者が多くいることが分かりました。

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⑤長期アウトカムの達成状況

最後に、長期アウトカム(学力、自己効力感、進路)の達成状況について確認されました。
効果が出るまでに時間を要する項目等があり、改善が見られた部分と見られなかった部分がありましたが、進路については、全員が高校等に進学することができました。

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また、進学満足度についても、高い結果となりました。

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(5)クーポン利用者・保護者の声

次に、定性的な情報として、実際にクーポン利用者や保護者の方から寄せられた声が紹介されています。

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(6)提言・教訓

最後に、本事業の成功要因として、①スティグマへの配慮があったこと、②学校や福祉課と連携したこと、③大学生ボランティアによる利用者へのケアの3点があげられています。

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他方、今後検討すべき事項としては、①区内の部署間や区・運営事務局間の連携強化、②多様な問題を抱えた家族への更なるケアの展開、③事業の対象学年の検討、④長期アウトカムに関する評価指標の見直しの4つが挙げられています。

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以上、今回の最終評価報告書のダイジェスト版をご紹介しました。

 

2.スタディクーポンのこれから~政策化と全国への広がり~

当日の発表資料(PDF/28頁)ダウンロードはこちら 

会計報告(PDF/2頁)はこちら

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次に、スタディクーポンの政策化と全国への広がりについて、報告させていただきます。

渋谷区での協働事業を開始してから、2つの変化が起きています。

一つは、政策化です。つまり、クーポンの原資が寄付金だったものから、自治体が公的資金で実施するようになっています。

もう一つは、全国への広がりです。もともとスタディクーポンはチャンス・フォー・チルドレンが東北で実施していたものでしたが、そのモデルが渋谷区に広がり、その他全国にも広がり始めています。

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実際に、2018年からは佐賀県上峰町という人口1万人未満の小さな町の政策にも取り入れられています。また、2019年度からは、千葉市でも政策化されました。

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また、沖縄県那覇市でも2020年度から始まる見込みです。那覇市の基本計画に、スタディクーポン事業が盛り込まれました。

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そして、東京都福祉保健局が、2020年度よりスタディクーポン事業を政策化する見込みです。スタディクーポン事業を実施する区市に対する補助という形で予算案に盛り込まれています。

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このように、クーポン型の学校外教育費補助の仕組みが全国の様々な自治体で取り組まれています。

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最後に、この流れを受けて、今後の方向性と目標をお話しします。

1つは、全国の自治体での政策化の動きです。私たちはスタディクーポンを都道府県や区市町村にもっと広げていきたいと思っています。ぜひ関心を持った自治体職員や議員の皆さんは検討してください。

2つ目は、効果検証や調査研究データの蓄積です。実は、今回渋谷区で協働事業を展開する前の段階、東北ではもう10年ほど事業を行っていますが、既に学術論文が2本出ており、いずれも子どもの学力向上が見られるという結果が発表されています。

一つの地域でうまくいったことがそのまま汎用的なものになるかは、しっかりと検証をする必要があります。今回渋谷区の事業で効果検証を行ったのはそのためです。自治体で取り組まれる場合、このような検証にも取り組んでもらいたいと思います。

3つ目は、スタディクーポン事業の運営ノウハウを移転させていくことです。渋谷スタディクーポン事業の運営事務局となったチャンス・フォー・チルドレンだけでこの事業に取り組むのではなく、地域の団体が取り組んでいけるように、その運営のサポートをしながら、より良い事業を作っていけるようにしていきたいと思っています。

これらを進めたうえで、最終的には国レベルの政策化を目指し、放課後の多様な学びの機会を全ての子どもに届けられる社会を作っていきたいと思います。

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以上、スタディクーポンの政策化と全国への広がりと、今後について報告させていただきました。

 

2017年に、皆さまからのご寄付によって実施することができた「渋谷スタディクーポン」。

おかげさまで、54名の子どもたちにクーポンを届けることができ、その成果が認められ、スタディクーポンの仕組みは、渋谷区や千葉市などの自治体で政策として導入されるなど、全国的な広がりを見せています。

改めまして、ご支援をいただいた皆さまには、心から感謝いたします。私たちはこれからも全国の教育格差を解決するために、全力を尽くして行きます。今後とも、よろしくお願いいたします。

 

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