みんなの力で教育格差をなくそうというコンセプトを掲げるスタディクーポン・イニシアティブ。今回は認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の理事長を務める大西連さんにお話を聞きました。
【話を聞いた人】
大西連 認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わる。東京プロジェクト(世界の医療団)など、各地の活動にも参加。生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言も行っている。
ーーー大西さん、今日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします。
小学校のころからクラスの中にある経済的な差の存在を感じていた
ーーー大西さんの出身はどちらでしたっけ?塾には通っていましたか?
僕は東京の郊外の方に生まれました。父親はサラリーマンで、母親は主婦だったりパートだったりという家庭だったんですけど、兄が中学で受験をしていたので、何となく自分も中学受験するものなんだろうなと思っていました。
地元の小学校は30人クラスで、中学受験するのはだいたいそのうちの10人弱ぐらい。地域のなかに団地もあるところだったのですが、団地に住んでいる子たちには受験する子が少ない。そういう意味で、小学校のときから経済的な差の存在を感じていました。
うちは多分中流家庭だったと思うんですけど、たまたま親が教育に対して意欲があって、まず先に兄が塾に行くようになったんですね。それを見ていてすごく楽しそうだったので「自分も塾に行きたい!」と言って、小4から僕も塾に通うようになりました。
ーーー塾に通ってみて、いかがでしたか?
超楽しかったです。授業が特に面白かった。自分のレベルにあったクラスに入れるから、それぞれの成長のタイミングにあわせた授業を受けられたのが良かったです。
小学校だと全員共通の授業だけど、塾ではある程度得意な分野とか、その子にあった授業があるので。
ーーー違う学校の同世代の子とかと出会えたりもしますよね。
そうですね。最寄駅は同じだけど、線路を挟んで反対側に住んでいる子たちとちょっと遊んだりとか、そもそも電車に乗って通うようになったこと自体初めてだったので、楽しかったですね。
その塾は土曜日にテストがあったりしたんですが、お弁当が必要で、うちの母親はお弁当を作りたくないタイプだったから、500円渡されて「好きなもの食べなさい」って言われたり。
カップ麺を買ったり、その500円からちょっと残して貯めておくみたいなことが楽しかったのを覚えています(笑)。
支援のなかで出会う、DV被害を受けた女性や母子家庭の子どもたち
ーーーもやいでの活動で出会う人たちの中で、自分のお子さんがちょうど受験期という方もいますか?
まず、もやいでは大体延べ3000世帯の連帯保証人や緊急連絡先を引き受けています。自分の名義では住まいを持てない人がアパートを借りる際に、もやいとして連帯保証人や緊急連絡先を引き受けているんですね。
連帯保証人を引き受ける条件は、その人が野宿をしていたり、施設暮らしだったり、ネットカフェで寝泊まりをしていたりという状況にあることです。DV被害を受けた女性や母子家庭の方の連帯保証人も結構受けていて。そうすると、お子さんが中学3年生くらいで、ということもよくありますよ。
ーーーそうした家庭にとって、受験や塾というのは金銭的にもなかなかハードルが高いものなのでしょうか?
生活保護を受けている方が多いのですが、今は高校には行ける時代にはなっています。ただ、なかなか一般的な学習塾に行っているというのはあまり聞かないですね。
無料の学習塾があればそういうところを利用する人もいるし、単純に学校の授業に加えて学校の先生たちが個別にフォローしてくれたりというなかで自分自身で勉強している人が多いと思います。
ーーーそうすると、大学受験はもっと厳しくなるのでしょうか?
はい。やっぱり特に大学進学は諦める子がすごく多いです。生活保護家庭の大学進学って実は法律で認められていないんですよ。例外措置の仕組みもあるのですが、そのためには背負う奨学金の金額が一般家庭の2倍ぐらいだったりとか、必ず仕事をして生活を稼ぎつつ大学に通うといった選択肢しかない。かなりハードルが高いんです。
だから、本当は大学に行きたいけれど、親のぶんも家事をしないといけないとか、進学すること自体を贅沢だと感じてしまう子がいる。大学に進学したいと言うことがまだ大っぴらに認められていない社会環境かなと思いますね。
主体的に選択しているように見えても、最初から選択肢自体が限定されている
ーーー高校受験で「本当はここの高校に行きたいけど諦める」ということもあるのでしょうか?
それは当然あると思います。
まず、私立は授業料がかかってしまいます。生活保護や就学援助を受けていると自己負担がそこまで大きくならないようにできるはできるんですけど。けれど、やっぱり多くは望めない環境だ、ということは間違いなくありますよね。
加えて「そもそも大学には行けないものだ」と本人が思い込んでいるから、商業高校に行くとか、工業高校に行くとか、最初のハードルの設定の仕方自体が一般家庭の子と低所得家庭や生活保護家庭の子とでは大きく違うのかなと思います。
自分の学歴とかキャリアとか、無限の選択肢ではないなかで、「そもそも大学行けないよね」とか、「手に職つけないといけないから商業高校受けよう」と考えたり。主体的に選択しているように見えるけれど、実は最初から選択肢自体が限定されている。
ーーー学力が低いと、先生から進学先を見限られてしまうこともありますよね。
学力が低い理由って、文化資本の問題だったりするということも当然あると思います。
以前、ある商業高校の4人の女子生徒からインタビューを受けた際に、「みんな将来どうするんですか?」って逆に聞いてみたら、全員「働く」と答えたんですね。
「なんで働くことにしたんですか? 大学進学は考えなかったんですか?」と聞いたら四人全員が「考えたこともない」と。
よくよく聞いてみたら、親も同じように高卒で、商店街でお店やってるとかで。その中には低所得ではない子もいたんですけど。進路を「選択できる」と捉えること自体ができていない環境にある子たちは一定数いて、そこに経済的な要因が加わってくるとその状態がさらに固定されてしまう。
ーーそもそも想定できる選択肢が少ないんですね。
選択肢がそもそもないっていう問題と、お金の問題はすごく複雑に絡み合っています。
まず、周りの環境は変えられるんだから、環境がもっと多様になっていくと良いのになと思います。僕も大学に行っていないので、別に大学に行ったほうが良いんだとは思わないんですけれど。
でも、なんだかんだ生涯賃金の違いがあったり、大学に行かないと取れない資格があったり、明確に社会での違いが出てくるのは事実です。それも含めてちゃんと提示したうえで本人が選べるようにすることが大事です。そもそも努力ができる土壌自体が無いというところを変える必要があると思います。
教育格差を解消するための色々な選択肢を
ーーー最後に、今回のプロジェクトに対するメッセージをお願いします。
本質的には、この教育格差の問題については、国や自治体の責任において「子どもの貧困対策」として考えるべきものだと思っています。でも、そのための方法の一つとして、まず民間で新しいモデルを試して、ちゃんとデータも出して分析して、その上で制度化していくというアプローチは良いと思います。
低所得の子向けの学習の機会だったり、居場所事業だったり、色々な選択肢があったほうが良い。そのうちのただ一つが正解ということはないと思います。就学、進学面以外のサポート、生活面であるとかそういうのも合わせて必要です。土壌のうちの一つとして、スタディクーポンにも意味があるのかなと思っています。
企画・執筆
望月優大・松岡宗嗣(SmartNews ATLAS Program)
スマートニュースの社会貢献チーム。SmartNews ATLAS Program ではこれまで「子どもが平等に夢見れる社会を残そう」をコンセプトに、子ども領域の非営利団体の情報発信を支援。今回スタディクーポン・イニシアティブにもサポーターとして参画し、プロジェクト全体のデザインや情報発信の側面から支援を行っている。
望月優大 Twitter Facebook / 松岡宗嗣 Twitter Facebook
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